トミムラコタさん『実録!父さん伝説』のトークイベント参加レポ

セクシャルマイノリティ、LGBT、それは自然なこと、自由なことだ。強制せず、メッセージを体現している。社会の枠組みに左右されない自由な雰囲気をまとう人に出会った。フリーのイラストレーター・漫画家のトミムラコタさんだ。

LGBTの話は「認めよう、理解しよう」とメッセージ性を強く押し出されることが多いが、バイセクシャルと公言するコタさんのイベントでは性の意見を強要する雰囲気はまったくなく、むしろネタにして盛り上げることで自然と受け入れられていた。

今回のサイン会とトークライブは阿佐ヶ谷ロフトAで開催された。Twitterでの拡散がキッカケとなり出版が決まったエッセイ漫画『実録!父さん伝説』にまつわる制作秘話や裏話があますことなく語られた。

イベントは2部構成。1部はコタさんとお兄さんのマジシャン三志郎さんによるトーク。兄妹視点でトミムラファミリーの日常や『実録!父さん伝説』出版にいたるまでの物語が語られた。

2部は本の主人公となる父さんが登場して、ゲイビデオ出演当時の様子やそれに至る経緯が明かされた。

『実録!父さん伝説』では「父がゲイビデオに出演したことがある」という体験が主題になっているので、奇抜な人格をイメージする人も多いと思うが、コタさんも父さんも堅実で誠実な人柄。

エッセイ漫画なのでギャグ要素があるのはもちろんだが、根底には「つらいことがあっても、なんとかなるよ」というメッセージが流れている。ストーリー自体は物珍しい内容だが、物語のすき間からこぼれるメッセージは誰もが共感でき、そっと励ましてもらえる感覚を味わうことができる。

今回のイベントは2部がとくに見所だ。コタさんと三志郎さんに加えて一般人(普段はタクシー運転手として勤務)の父さんが交わす会話はエンターテイメント性を意識しつつも、トミムラ家のお茶の間をそのまま会場にもってきたようなおもしろさ。

元刑事の父さんは鋭いまなざしと深い声。迫力ある語り口で昭和の男らしさがただよう。たとえば、こんな場面があった。当時住んでいたところをボロアパートと表現した兄妹に「あの建物にいまも住んでいる方がいる。ボロアパートなんて失礼な表現はするべきではない」と威厳ある父の姿を見せる。

しかし、その直後に突然、さりげない下ネタで会場を沸かす。堅苦しいだけでは終わらない、人間味があふれる。明るく楽しい家庭だからこそ、『実録!父さん伝説』は生まれたのだろう。

そんな明るいトミムラ家の父さんだが、経済苦のあまり家族を守るために自殺すら考えたこともあったという。そのくだりは漫画の中でも詳しく描かれているが、自身の半生を振り返りつつ、こう言葉を残した。

「人生、いろんなことがあったって、たいしたことじゃない」

警察官、船乗り、イラスト業、ゲイビデオ出演、タクシー運転手……波乱万丈の人生をわたり歩いた父さんが語る「たいしたことじゃない」という言葉を聞き、心が軽くなった人も多かったはずだ。家庭を守り抜いてきた父さんがいうのなら、いま私が対面している労苦も小さく感じられる日が来るだろうと会場がホッとした空気につつまれたように感じた。

また、父さんはこうも語る。

「過去を振り返って笑えるような人生がいいじゃないか」

昔の話は過去のことだから、それにとらわれる必要はない。笑って語れる今があるならそれでいいじゃないか、と明るく励ます父さんの姿に参加者は勇気づけられた。

そんなユニークな父さんをもつ著者トミムラコタさんもユニークな経歴の持ち主。高卒入社からの解雇、転職。そして、結婚と出産と離婚。これらを20代前半で経験。パニック障害をかかえたフリーのイラストレーター(バイセクシャル)。その経歴の奇抜さから「トミムラさんは描くネタに困らない生き方でうとましい」といわれるそうだ。

経歴だけ聞くと大ベテランの漫画家をイメージするが、平成生まれの20代。腰の低さに驚きを隠せない。今回のイベントの告知でも「グッズもらってね!靴も舐めるね!」とTwitterで告知する、お高くとまらない気さくな人柄。話の奇抜さだけに頼らない人柄があるからこそ、これからの活動にも注目したい。

 


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