『野菊の墓』伊藤左千夫(著)

元治生まれの小説家伊藤左千夫の恋愛小説。15歳の少年政夫と2歳年上の民子が抱く恋心を描いた作品で、とても切なくなる物語。2人は仲良く、お互いのことを思い合うのだが、周囲からは認めてもらえる関係にはなれない。民子は政夫の従姉にあたる。つまり親戚同士の恋なのだ。物語は若い二人が仲良しから次第に恋心を描くまでの心境が機微に渡って描かれている。タイトルにもある野菊が一面に咲く場面では互いの恋心が確信に変わる。時代を超えて共感されるラブストーリーと言えるだろう。実際、平成に入ってからも映像化作品や舞台で上演されている。

この切ないラブストーリーは人の心が美しいと描く反面、社会や運命に抗うことのできない苦しさも描かれている。歯がゆさ、理不尽さに腹立たしい気持ちを抱くのは、読み手の根底に「人生って反抗したくてもできないこと、あるよね」という前提が共有されているからだろう。今でこそ自分らしく生きたり、正直に生きるということが言われる社会になってはいるが、社会で生きる以上は制約がそれなりについてまわる。仕事や顧客について苦心することもあるだろう。その制約がために諦めたり、望んではいないものを選ばざるを得ない場面もあるはずだ。テーマはラブストーリーでありながら、社会的な人間が抱える葛藤を描いている作品にも感じる。

 


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